理事長所信


1 青年会議所の存在意義

すべての子どもたちが笑顔に溢れ、夢や希望を描くことのできるまち。子どもからお年寄りまで、すべての人が活き活きとして輝き、幸せを実感できるまち。子育て世代のひとりの「親」として、老いゆく両親を支えていくひとりの「子」として、そして地域で暮らすひとりの「人」として、このまちがそうあり続けて欲しいと、私は心から願っています。

そのようなまちを作り上げていくには、住民一人ひとりが少しずつ知恵を出し合い、お金を負担し、時間を割いて、お互いに協力していくことが必要であり、それこそが「地域」の本質的な要素であると私は考えています。

私たち青年会議所は、そのようにしてまちを作り上げていく、「青年」によって「組織」された団体です。

「青年」であるからこそ、私たちは、新しいことに視野を広げ、どんどん吸収して、10年20年先をイメージしながら、今までにないチャレンジをしていくべきです。時に失敗するときもあるでしょうが、失敗すらも糧にしてまたチャレンジする。私は、その吸収力、想像力、そして行動力こそが「青年」の本質であり、その特権を活かすことは青年の使命と言っても過言ではないと考えています。

そして、「組織」であるからこそ、私たちは、互いに高め合い、助け合い、意見をぶつけ合いながら、ひとりでは到底なしえないようなチャレンジをすることができます。

後述するように、人口減少や人口構造の変化、急速な技術革新などによって、地域の10年20年先を描くことは非常に難しくなっています。そんな時代だからこそ、私たち青年会議所は、率先して学び、考え、意見をぶつけ合いながら、明るい豊かな社会をしっかりと描き、具体的に行動していく必要があります。

2 人口減少と人口構造の変化

私たちの地域において、人口減少の問題は既に本格的に始まっています。

大隅半島で人口の一番多い鹿屋市を例に挙げると、2010年の人口10万5070に対し、このままでいけば、2040年の人口は8万7659人になると推計されておりますし、大隅半島全体ではより深刻な数値が掲げられています。

そして、更に深刻な問題は、人口の中身、つまり年齢構成が変容することです。先ほど同様に鹿屋市を例に挙げると、2010年時点での65歳以上の人口の割合が総人口の24.7%であるのに対し、2040年は33.6%と、高齢化は更に進展していくと見込まれています。一方で、2010年時点での15~64歳の人口(生産年齢人口)が6万2717人であるのに対し、2040年は4万6561人と、25%以上も減少すると言われています。

周知のとおり、こうした人口減少と高齢化の問題は、大隅半島のみならず、我が国全体においても最重要の課題として捉えられています。

人口減少と高齢化が進むことは、とりもなおさず自分で稼いで消費する人が減ること、すなわちモノやサービスが売れなくなることを意味します。また、先に掲げた生産年齢人口の減少は、人手不足、ひいては生産者・事業者の生産力の低下という問題を引き起こします。更に深刻な問題が起きているのが社会保障制度、特に公的年金制度です。我が国の社会保障制度の多くは、人口増加と経済成長が将来も続くことを前提としているため、すでに根本的な見直しに迫られています。

国や自治体も、人口減少と高齢化の問題に全力を挙げて取り組んでいます。私たち青年会議所も、これらの問題をしっかりと共有し、各種の施策に協力をすることはもちろんのこと、民間の「青年」の「組織」だからこそできる取り組みを率先して行っていく必要があると考えます。

3 先端技術の活用による産業の発展

私は、地域の活力の源泉は産業にあると考えています。生産者・事業者がしっかりと収益をあげることが、従業員の所得の増加にもつながり、ひいては消費の拡大という好循環につながります。

生産者・事業者の収益は、シンプルに言えば、「1つあたりいくら収益があがるモノを、いくつ売ったのか」によって決まります。より価値のあるモノ・サービスを(価値そのものの創造)、より安価で生産し(生産性の向上)、より多くの顧客に販売する(販路の拡大)。言葉では簡単でも、生産者・事業者にとっては、いずれも大変難しい問題です。

私たちは今年度、ロボットやAI(人工知能)、IoT(IT機器以外の製品にインターネットを直接つなげる技術)、RPA(ルールに従って処理される事務作業をソフトウェアでロボット化する技術)などといった先端の技術に着目して、上記問題のうち、生産性の向上に取り組んでみたいと考えます。これらの先端技術は、地域の産業における生産量や収益性を向上させるとともに、人口減少時代における労働力不足の受け皿になる可能性を十分に秘めています。一方で、これらの先端技術によって一体何ができるのか、地域の産業にどのように活かすことができるのか、コストがどれくらいかかるのか、具体的なイメージを抱くことが難しく、地域の生産者・事業者の多くが無関心であったり、様子見となってしまっているのも事実です。

私たちは、これらの技術について学び、具体的に活用する取り組みを行いたいと考えています。

我が国では現在、先端技術を活用した「Society5.0」というビジョンが描かれています。鹿屋市でも、市役所内にRPAを導入したり、「かのや型スマート農業研究会」を発足させるなど、産業分野における先端技術の活用に向けた取り組みを具体化しつつあります。私たちは、行政の情報をしっかりと把握しつつ、行政・各団体と連携しながら、民間の生産者・事業者における先端技術の導入に向けた取り組みを行い、民間ならではの実体験に基づく情報を提供することで、地域の産業の持続的発展に寄与していきたいと考えます。

4 特色を活かした地域づくり

私たちの地域は、全国でも有数の一次産業がありますし、他の地域にはない様々な特色ある施設も有しています。そして、雄大な自然のもとに、人情味あふれる住民が居住し、この地域ならではの暮らしや文化が形成されています。この地域は、他のどの地域にも負けない、本当に魅力溢れる地域だと思っています。

その一方、どれだけこの地域を愛していても、進学や就職などの事情で若者が域外に流出することは避けられないのが現状です。

地域の魅力を実感できるさまざまな取り組みを通じて、域外に流出した若者が、域外で郷土愛をもって地域を語ってくれるのであれば、こんなに素敵なことはありません。反対に、この地域で住み暮らす若い世代が「地域が嫌い」「地域に関心がない」と言っているようでは、地域に未来はありません。将来的なUターンや交流人口の増加という視点で考えても、地域の魅力を若い世代に伝えていくことは、この地域で住み暮らす私たちの使命であると考えます。

すでに、行政機関はそうした地域の特色を活かして地域のPRを内外で積極的に行っていますし、さまざまな民間企業・民間団体も地域の特色を活かした地域づくりを行っています。こうした取り組みは、地域の活性化にもつながりますし、また、私たち地域住民に地域の魅力を再認識させてくれるという意味でも、本当に貴重な活動だと考えています。

一方で、私は、地域のポテンシャルを考えれば、まだまだ青年会議所として「仕掛け」を打つ余地はあるように思っています。

若い世代に伝えきれていない「地域の魅力」は確実に存在します。そして、情報の価値を考えたときに、現代では、その魅力にストーリー性を加えて発信していくことが欠かせません。

「こういう体験ができる」という発想ではなく、「ここでしかできない体験がある」というオンリーワンの発想で、今年度、改めて地域の魅力を活かしたまちづくりを行いたいと考えております。

5 未来を生き抜く力

今の子どもたちが成人したころには、先に述べた人口減少・人口構造の変化、急速な技術革新などに伴って、今とは全く異なる社会が展開されていることと思います。

一昔前であれば、勉強して良い学校に進み、有名な企業に就職するといった、いわばロールモデルのようなものが存在していました。しかしながら、子どもたちが今憧れているさまざまな職種は、子どもたちが成人したころには、もしかするとなくなってしまっているかもしれません。その意味で、今の子どもたちにとって、未来を描くことは本当に難しいことだと思います。

そんな難しい時代だからこそ、子どもたちには是非、「未来を生き抜く力」を身につけてほしいと考えています。

私は、「未来を生き抜く力」として、子どもたちの「非認知能力」を育むことが重要であると考えています。「認知能力」は、IQや学力テストで計測される能力をいいます。これに対し、「非認知能力」とは、「忍耐力がある」「意欲的である」「社会性がある」といった、いわば人間の気質や性格的な特徴のようなものを指します。

アメリカにおける研究発表として、「高校に通わずに一般教育終了検定(日本でいうところの高卒認定試験)に合格した生徒は、高校を卒業した生徒に比べて、年収や就職率が低いことが統計上明らかになった」というものがあるそうです。もしも、学力などで計測される「認知能力」のみが重要なのだとすれば、同程度の学力を持つ一般教育終了検定合格者と、高校を卒業した生徒との間に大きく差が付くはずがありません。おそらく、学校とは、ただ単に勉強をする場所ではなく、先生や先輩、同級生などから多くのことを学び、「非認知能力」を養う場所でもあるということなのだと思います。

私は、IQや学力テストでは計測することのできない「非認知能力」こそ、子どもたちが目まぐるしく変化する社会を生き抜き、より良い人生を過ごす上で最も重要であると考えます。

そして、この「非認知能力」は、座学で身につくようなものではなく、人との関わり合いの中で学び、獲得するものであると言われています。

子どもたちの成長において最も重要な舞台が、家庭であり、学校であることは言うまでもありません。だからこそ、家庭や学校の果たす役割をしっかりと踏まえた上で、「他人と積極的に関わり合いを持てる子どもの育成」を目標に、青年会議所だからこそできる青少年育成事業を展開したいと考えます。

6 「受け手」を意識した広報

どんなに素晴らしい商品・サービスがあっても、誰も知らなければ売れるわけがありません。その意味において、広報は、商品・サービスを作ることと同じくらい大切な、車の両輪と言っても過言ではありません。

しかしながら、さまざまな情報媒体があり、情報自体も氾濫する中で、青年会議所が情報の発信を行っても、「見てほしい人に見てもらえない」「じっくり読んでもらえない」「期待通りの効果がない」と感じることはままあります。とはいえ、それはある意味当然のことで、発信する側にとって重要な情報であっても、受け手側からすれば重要かどうかすらも分からない、無数にある情報の一つに過ぎないからです。

その意味において、情報発信を行うにあたっては、常に「受け手」を意識して行うことが必要です。「受け手」が誰であるかを明確にした上で、「受け手」に対して適時・確実に「伝わる」広報を構築していきたいと考えます。

また、普段から私たちの活動に協力して下さっている鹿屋JCシニアクラブの先輩方や、情報を共有させて頂きたい行政・各団体に対しては、私たちの活動状況が逐次伝わるように、広報面での工夫をしていきたいと考えています。

7 会員拡大

私たちが運動を展開していくにあたり、会員拡大が重要であることは言うまでもありません。「三人寄れば文殊の知恵」と昔からいいますが、より良い活動を行うには、多くの会員で語り合い、意見をぶつけ合うことが必要不可欠です。

ここまで述べました通り、私は、民間の「青年」の「組織」だからこそできる取り組み、そして、民間の「青年」の「組織」にしかできない取り組みを行うのが青年会議所だと考えています。このまちの未来をともに切り拓いていく仲間を増やし、わいわいがやがやと議論して、エネルギー溢れる地域を築いていきたいと考えています。

8 会員全員の力を結集する組織の運営

青年会議所の会員は、十人十色のバックボーンを持ち、従事する職業も多岐にわたっています。そんな会員同士が、それぞれの知恵や経験、能力を活かし、力を合わせてひとつの目標に進むことができれば、パワフルな運動体となることは想像に難くありません。私は、これこそが「組織力」なのだと考えています。

会員同士が普段からコミュニケーションを密にして、一体感を高め、それぞれが存分に力を発揮できる組織を目指して、組織の運営を行っていきたいと考えています。

9 おわりに

私たちは、「青年」であるからこそ、ごたくを並べる必要は全くありませんし、分かったふりをする必要はありません。一方で、憶する必要はありませんし、失敗を恐れる必要もありません。成功も失敗も立派な成果ですから、調べ上げ、考えつくし、意見をぶつけ合い、チャレンジすればよいと私は考えています。

平成の時代が終わり、新たな時代がやってきます。私たちは、新たな時代を担う責任世代として、今後とも地域の課題に率先して取り組む組織であり続けたいと思います。そして、私たちが小さく生んだ成果が、いつか大きく育ち、地域の未来を明るく照らすことを、私は信じています。

最後になりますが、55年にわたり引き継がれてきた鹿屋青年会議所の理事長として、1年間しっかりと役割を全うし、より良い地域を築くために会員一丸となって取り組むことをお誓い申し上げ、2019年度理事長所信とさせて頂きます。